第三章 偽りの試練

僕は決意した。二度とこんなことにはさせないと。

たった一人の青年に何ができるわけでもない。

でも、手がかりはある。「西の洞窟。」

 

そこにたどり着くまでの十分な装備を整えた。母は今回は反対しなかった。けど、どこか寂しそうだった。

これ以上仲間を失うのは辛いので一人旅を選んだ。しかし、道中の人びとは皆優しかった。戦乱のなか、貧しく不安定な生活を送っていてもなにかとよくしてくれた。


そんななか僕はある一人の少年に出会う。彼の名前はモンタ。東洋系統の顔立ちはここでは珍しい。
ラートルという民族衣装をまとっていて、いろんな話をしてくれた。ユレイラントについては僕と同じ程度の知識しかなかった。でも、「西の洞窟」について知っていた。そこの民族は「天の橋」という試練を越えた人としか接触の機会を持たないということを教わった。

 

「天の橋」の試練を受けるために、南へ向かった。南の村トリスの山奥に、天の橋はあった。天の橋は長い吊り橋だ。事情を話すと村長は、メロルという女戦士を案内につけてくれた。試練を受けることができる。彼女が言うには、目隠しをして吊り橋の向こうまで行き、はずして戻ってくるだけだという。

 

「最近、この試験を受けた人はいますか?」

 

「きいてどうする?」

 

「参考までに。」

 

「数年前、女性がきた。」


女性でも達成できるのだからやはり大したことはないのだろう。試練というので厳格なものだと思っていた僕には拍子抜けだ。女戦士も心なしかめんどくさそうに見える。僕は目隠しをして、長い吊り橋を渡った。風になびかれながら、ロープをつたっていく。色々なことを思い出した。たった半年間の旅だったが色々なものを見た。僕は今までなにも知らなかった。それでもやはり、リート王国で、子供の頃ユメと遊んだ日々が一番大切な思い出だ。


そんなことを考えているうちに、反対岸までついたようだ。簡単な試験だった。僕は女戦士に合図を送ろうと、目隠しをはずして振り向いた。しかしそこに、女戦士の姿はなかった。僕はしかたなく、もとの岸へ戻ろうとした。吊り橋へ足を踏み入れたそのときだった。谷底からうめき声が聞こえた。そのあとに赤ちゃんの鳴き声。
そこからは続けざまに、いろんな人の声がした。澱んでおもいこえ。落ち着きのない声。語りかける男の声。怒りをぶつける女の声。何が何だか分からなかった。僕は慌てて駆け出した。目をつむり耳をふさいで。そしてすぐにつまずいた。

 

痛い。

そう、聞こえた。

僕の声じゃない。

 

倒れたまま横を見ると、皮膚の剥がれた人影と目があった。

なんだこれ。

慌てて回りを見ると、辺り一面、谷底の奥まで、皮膚がただれた人の山だった。押し合いへし合い、踏み潰しあってこの高さまで来ているようだ。天の吊り橋以外のすべてが、彼らで埋まっていた。

声は依然聞こえる。すべての人影が口をモグモグさせているが、聞こえてくるのは一人ずつだ。そして、気づいた。一歩進むごとにまた違う誰かの声が聞こえるのだ。

僕は逃げ出したい気持ちを押さえてすこし考える。これは間違いなく試練とかかわっている。そもそも目隠しで吊り橋をわたるなんて簡単なものが試練なはずはない。だとすればモンタは、村長はなんていった。その時女戦士の言葉を思い出した。

「試練は行って戻ってくる。」
そういうことか。だとすれば、僕のやることはひとつだ。僕は天の橋に正座した。目をつむり正座した。

 

いったい何時間たったであろうか。一歩ごとに一人一人の話を聞いた。孫をひたすら心配するおばあちゃん。戦いから戻ってこない夫を心配する女性。ひたすら痛い痛いと喚く子供や、僕をお兄ちゃんと勘違いしておなかすいたーと話す少女。すべてを聞いた。たわいもない話も多かった。みんな、話すうちに口調も穏やかになっていくのが少し嬉しかった。


最後の一人と話をすませ、もといた岸への一歩を踏む。ぱっと風景が戻った。
いつの間にか夜になっていたようだ。満点の星空が出迎えてくれた。


「天の川はどうだった?」

気づけば女戦士が前方にたっていた。

天の川は、異郷とこの世を結ぶのものってことか。

僕はちょっとだけ考えて答えた。

 

「きれい…でしたよ。どの星も。」

 

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